起業家ゼミELコース豊島リトリート(合宿)の報告
「圧倒的な現実に触れ、自らの使命を問い直す」
2026年5月9日から11日にかけて、NPO法人Leap Forが主催する「起業家ゼミ(Entrepreneurship Leaders=EL)コース」1・2期生による豊島合宿を開催しました。
舞台は、瀬戸内海に浮かぶ愛媛県上島町の豊島。ピースウィンズ・ジャパン代表理事の大西健丞氏をホストに迎え、14名の参加者が神石高原シェルターの視察や大西氏との対話、アートを通じた内省、仲間との本音の対話に取り組みました。
社会課題の最前線に触れた後、日常から距離を置き、自らの事業や人生、社会に対して果たしたい役割を見つめ直す2泊3日となりました。
ELコースは、海外経験を持つ若者が新たな視野とより高い視座を持ったリーダーになるための成長を支援する6ヶ月〜1年のプログラムです。
その中心にあるのが、教育モジュール(YGL・EOフォーラムのエッセンスを融合)。
これは、世界経済フォーラムのYoung Global Leaders(YGL)や起業家機構(EO)フォーラムに着想を得た、“本音で語り合うリーダーの学習共同体”です。
隔月に一度、チームが集まり、ビジネスの課題や個人の葛藤、価値観の変化を率直に共有します。
安全で信頼できる場の中で、互いを映し合いながら「自己探求」「相互支援」「フィードバック」を重ねることで、リーダーとしての在り方を磨いていきます。
1期生は現在3年目を迎え、後輩である2期生の学びを支えながら、“学びの循環”を実践しています。
■ 1日目:社会課題の現場と、民間が公共を担う可能性
初日は、広島県神石高原町にある「神石高原シェルター」を訪問しました。
神石高原シェルターは、ピースウィンズ・ジャパンが運営する日本最大級の保護犬施設です。約10,000匹の犬を引き取り、個別の命を救うだけでなく、「犬の殺処分ゼロ」という社会課題を、仕組みとスケールによって解決する取り組みを進めています。
施設では、空調や床暖房を備えた犬舎など、高い倫理観と持続可能な事業運営を両立する仕組みに触れました。
参加者からは、組織の規模だけでなく、一人の人間が動かし得る社会的インパクトの大きさに驚いたという感想がありました。また、寄付や税制、NPO、自治体、企業との連携を、自らの活動を進める選択肢として捉え直した参加者もいました。

その後、参加者は船で豊島へ移動しました。
豊島は、周囲約4キロメートルの瀬戸内海の中央に浮かぶ無人島です。コンビニや自動販売機もなく、一般には開放されていません。物理的な隔離と情報の遮断、圧倒的な自然、そして島に点在するアート作品に身を委ねることで、自身の固定観念を揺さぶり、新たな視点から事業や人生を見つめ直す機会として、今回特別にご提供いただきました。

夜には、食卓を囲みながら、大西氏による講話と対話を行いました。
大西氏は、イラク、コソボ、アフガニスタンなどでの国際人道支援、国内災害への対応、NPOの資金調達や組織経営について、自身の経験を交えながら語りました。
講話を通じて繰り返し示されたのは、「公共を誰が担うのか」という問いでした。
公共は行政だけが担うものではありません。市民、企業、NPO、財団、地域組織、専門家が、それぞれの資源や専門性を持ち寄ることで、行政だけでは届きにくい人に支援を届け、新たな方法を試し、迅速に行動することができます。
また、危機の現場では、すべての情報がそろうまで待つのではなく、現在分かっている事実を整理し、複数の可能性と最悪の事態を想定し、修正可能な形でまず動くことが必要だと語られました。
参加者は、自身の経営や人生と重ね合わせながら、「何のために事業を行うのか」「どこまでリスクを引き受けるのか」を問い直しました。

■ 2日目:アートと自然の中で、自らの問いを深める
2日目は、世界的な画家ゲルハルト・リヒターの作品空間をはじめ、島に点在するアート作品や豊かな自然に包まれた環境を舞台に、起業家ゼミ生によるアートと瞑想を組み合わせたワークショップから始まりました。

参加者は、言葉や論理だけで答えを導こうとするのではなく、作品や自然の中で生まれる感覚や身体の反応に意識を向け、自らの内側を静かに見つめました。
ワークショップの一環として島内を自由に散策し、海を眺め、本を読み、仲間と語り合いながら、それぞれの問いを深めていきました。
参加者の一人は、花や蜜蜂、鳥のさえずり、波の音を味わう中で、自分の現在の状態が良好であることを確認できたと振り返っています。また、別の参加者は「五感が開いた」と表現し、日常の「ちゃんとしなければ」という緊張から離れ、身体感覚を忘れずにいたいと語りました。
午後から夜にかけては、リーダーシップ・ダイアログを実施しました。
参加者が持ち寄った問いは、「資本主義と社会還元は両立できるのか」「才能と会社の成長をどう両立するのか」「今後の人生をどのように生きたいのか」「事業をいかに後世へ残すのか」など、多岐にわたります。
正解や助言を与え合うのではなく、一人ひとりの経験や感情を尊重し、本音で語り、本気で聴く。その対話を通じて、参加者は事業という“Doing”だけでは捉えきれない、自分自身のあり方“Being”と向き合いました。

■ 3日目:問いを日常の経営と社会へ持ち帰る
最終日は、豊島で深めた使命や問いを、日々の経営や社会との関わりにどうつなげていくのかを、それぞれが自分の言葉で語りました。
すべての問いに答えが出たわけではありません。しかし、現場に触れ、自然やアートの中で内省し、仲間と対話したことで、それぞれが向き合うべき問いの輪郭はより明確になりました。
参加者からは、「自分に残されている時間は意外と少ない」「30代はもう一度アクセルを踏んで挑戦したい」「命を燃やすほど日々を生きているのかを宿題として持ち帰りたい」といった声が寄せられました。
また、合宿で得た学びを次の行動につなげ、自治体とのミーティングを早速設定した参加者もいました。
■ 参加者の声
今回の合宿で、参加者の心に強く残ったのが、大西氏の次の言葉です。
「崖っぷちを歩くときも、草原をスキップするように歩きなさい」
命に関わる現場や複雑な社会課題に向き合いながらも、遊び心や軽やかさを失わない。
参加者からは、「豪快さと繊細さを併せ持つ姿に惹かれた」「遊びながら社会に影響を与えていく生き方が参考になった」という声が寄せられました。
また、ある参加者は、自らが実現したい社会に対して、現在動かせているリソースの小ささを実感したと振り返ります。その上で、目的に応じて企業やNPO、寄付などの手法を柔軟に使い分けながら、事業を加速させていきたいと語りました。
別の参加者は、一人の人間が社会を大きく動かしている姿に勇気づけられ、「もっと人を巻き込み、もっとお金を動かす」と決意を語りました。
■ まとめ
今回の豊島合宿は、社会課題の最前線に触れ、自然やアートに身を置き、仲間と本音で対話する中で、自らの使命と向き合い、リーダーとしての在り方を問い続ける3日間となりました。
神石高原シェルターの視察や豊島での滞在、大西氏との対話を通じて、参加者は、社会課題に向き合うとは、理想を語るだけではなく、現場を知り、資金や人材を集め、リスクを引き受け、仕組みを築きながら責任を果たし続けることだと学びました。
また、豊島の豊かな自然やアート、仲間との本音の対話を通じて、「何をするか」だけではなく、「なぜそれをするのか」「どのような人としてそれを行うのか」をあらためて見つめ直しました。
Leap For起業家ゼミは今後も、海外経験を持つ若者が、自らのBeingと向き合いながら、社会に対して果たすべき役割を考え、実践へとつなげていける場を育みます。
そして、先輩ゼミ生が後輩の学びを支え、経験や知恵を次の世代へと受け継ぐ「恩送り」の循環を通じて、社会を変革する次世代リーダーが育ち続けるコミュニティを、これからも共に創っていきます。
